監査役の独立を担保する制度

監査役は,取締役の職務執行の監査をなす機関ですので,その独立性が強く要求されます。
監査役の独立性を担保する制度として,会社法は以下のような規定を設けています。

1 監査役の任期(336条)
監査役の任期は,選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会終結の時までとされています(第1項)。
公開会社以外の会社においては,定款で任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会終結の時まで延ばすこともできます(第2項)。

2 監査役の選任・解任決議の方法(341条・309条2項7号)
まず,監査役の選任決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した株主の議決権の過半数で行います(341条)。
ただし,定款で定足数と議決権数を特別に定めたときは,それに従います。
次に,監査役の解任決議は,株主総会の特別決議によって行わなければならないとされています(339条1項,309条2項7号)。ここで,特別決議というのは,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上にあたる多数をもって行う決議のことをいいます。通常の決議に比べて要件が厳しくなっているのは,監査役の解任決議を慎重に行うことにより,監査役の独立性を保とうという趣旨です。

3 監査役の選任・解任・辞任の場合の監査役の意見陳述権(345条1項〜4項)
監査役は,株主総会において監査役の選任もしくは解任または辞任について意見を述べることができます。また,監査役を辞任した者は,辞任後最初に招集される株主総会に出席して,辞任した旨及びその理由を述べることができます。

4 監査役の選任に関する監査役の同意等(343条)
取締役は,監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには,監査役監査役が2人以上ある場合にはその過半数監査役会設置会社においては監査役会)の同意を得なければなりません(第1項)。
監査役監査役会設置会社においては監査役会)は,取締役に対し,監査役の選任を株主総会の目的とすること,または監査役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができます(第2項)。

5 監査役の報酬等(387条)
監査役の報酬等は,定款にその額を定めていないときは,株主総会の決議によって定めることとされています(第1項)。ここで,監査役の報酬等とは,監査役の報酬,賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益のことをいいます(361条1項)。
監査役が2人以上ある場合において,各監査役の報酬等について定款の定めまたは株主総会の決議がないときは,当該報酬等は,前項の報酬等の範囲内において,監査役の協議によって定められます(387条第2項)。

6 監査費用(330条,民法649条・650条,会社法388条)
監査役は,事前または事後に,会社に対し監査費用の支払いを請求することができます。その際,監査役がその職務の執行について会社に対して費用の前払いの請求,支出した費用ならびに支出日以後におけるその利息の償還の請求および負担した債務の債権者に対する弁済の請求をしたときは,会社はその請求にかかる費用または債務がその監査役の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き,拒むことができないとされています(388条)。

7 兼任禁止(335条2項)
監査役は,株式会社もしくはその子会社の取締役もしくは支配人その他の使用人または当該子会社の会計参与もしくは執行役を兼ねることができません。なぜかというと,監査役代表取締役などからの独立性を確保するとともに,自己監査を防止するという趣旨です。

8 社外監査役(335条3項)
監査役会設置会社においては,監査役のうち半数以上は,過去にその会社またはその子会社の取締役,会計参与もしくは執行役または支配人その他の使用人となったことがないものでなければなりません。

9 損害賠償等(423条,427条)
監査役は,任務懈怠により会社または第三者に損害を与えたときは,損害賠償義務を負います(423条)。ただし,会社に対する責任追及については,株主総会特別決議または定款に基づく取締役会決議によって,社外取締役と同じ範囲で責任の一部を免除することができ(425条,426条),社外監査役については,事前の責任限定契約も認められます(427条)。また,罰則の定めもあります(960条〜976条)。
このように,監査役には非常に重い責任が課せられていますので,独立した地位で独自の判断で業務を行わなければ,大変なことになります。

監査方針

 監査方針とは,監査役が監査をする際に定める基本理念,目的,方法などを定めたものです。
 監査役監査基準には,監査役の職務と心構え(第2章)という規程があります。
第2条(監査役の職責)
1. 監査役は、株主の負託を受けた独立の機関として取締役の職務の執行を監査することにより、企業の健全で持続的な成長を確保し、社会的信頼に応える良質な企業統治体制を確立する責務を負っている。
2. 前項の責務を果たすため、監査役は、取締役会その他重要な会議への出席、取締役及び使用人等から受領した報告内容の検証、会社の業務及び財産の状況に関する調査等を行い、取締役又は使用人に対する助言又は勧告等の意見の表明、取締役の行為の差止めなど、必要な措置を適時に講じなければならない。
第3条(監査役の心構え)
1. 監査役は、独立の立場の保持に努めるとともに、常に公正不偏の態度を保持し、自らの信念に基づき行動しなければならない。
2. 監査役は、監査品質の向上のため常に自己研鑽に努めなければならない。
3. 監査役は、適正な監査視点の形成のため、経営全般の見地から経営課題についての認識を深め、経営状況の推移と企業をめぐる環境の変化を把握するよう努めなければならない。
4. 監査役は、平素より会社及び子会社の取締役及び使用人等との意思疎通を図り、情報の収集及び監査の環境の整備に努めなければならない。
5. 監査役は、監査意見を形成するにあたり、よく事実を確かめ、必要に応じて外部専門家の意見を徴し、判断の合理的根拠を求め、その適正化に努めなければならない。
6. 監査役は、その職務の遂行上知り得た情報の秘密保持に十分注意しなければならない。
7. 監査役は、健全で持続的な成長を可能とする良質な企業統治体制の確立と運用のために、監査役監査の環境整備が重要かつ必須であることを、代表取締役を含む取締役に理解し認識させるよう努めなければならない。

 監査方針の策定に当たっては,
(1)経営方針・経営計画
(2)企業のおかれる経営環境
(3)経営上・事業運営上のリスク
(4)内部統制システム構築・整備,運用の状況
(5)リスク管理体制,コンプライアンス体制などの整備・運用状況
などを考慮,検討して行わなければなりません(監査役監査実施要領)。

監査役の基本的事項

 監査役設置会社においては,監査役は3人以上は,そのうち半数以上は,社外監査役でなければならないと定められています(会社法335条3項)。社外監査役とは,株式会社の監査役であって,過去に当該株式会社またはその子会社の取締役,会計参与もしくは執行役または支配人その他の使用人となったことがない者をいいます(会社法2条16号)。
 大会社かつ公開会社で,委員会を設置していない会社は,監査役会を設置しなければならなりません(監査役会設置会社,同法328条1項)。
 監査役の任期は,選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終の者に関する定時株主総会の集結の時までとされています(同法336条1項)。公開会社でない株式会社においては,この期間を定款で10年以内に伸ばすことができます(同法同条2項)。
 

財務報告にかかる内部統制の評価及び監査に関する実施基準(6つの基本的要素―情報と伝達)

 情報と伝達とは,必要な情報が識別,把握及び処理され,組織内外及び関係者相互に正しく伝えられることを確保することをいいます。組織内の全ての者が各々の職務の遂行に必要とする情報は,適時かつ適切に識別,把握,処理及び伝達されなければなりません。
 また,必要な情報が伝達されるだけでなく,それが受け手に正しく理解され,その情報を必要とする組織内の全ての者に共有されることが重要です。情報と伝達については,情報の識別・把握・処理・伝達が適時・適切になされることが求められています。
 組織においては,識別,把握,処理された情報が,組織内及び組織外に適切に伝達される仕組みを整備することが重要です。
 組織内においては,たとえば経営者の方針は組織内の全ての者に適時かつ適切に伝達される必要があります。また,不正および誤謬等の発生に関する情報など内部統制に関する重要な情報が経営者及び組織内の適切な管理者に適時かつ適切に伝達される仕組みを整備することが重要です。
 また,情報は,組織外に対しても適切に伝達または報告される必要があり,たとえば株主,監督機関,その他の外部の関係者に対する報告や開示等において,適正に情報を提供していく必要があります。不正または誤謬等の重要な情報は,取引先等の関係者を通じて組織の外部から提供されることがあるため,情報を組織の外部に伝達または報告される仕組みだけでなく,組織の外部からの情報を入手されるための仕組みを整備することが重要です。
(出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に係る実施基準の設定について(意見書))
 

財務報告にかかる内部統制の評価及び監査に関する実施基準(6つの基本的要素―統制活動)

 統制活動とは,経営者の命令及び指示が適切に実行されているかを保護するために定める方針及び手続をいいます。
 統制活動には,権限及び職責の付与,職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれます。このような方針及び手続は業務のプロセスに組み込まれるべきものであり,組織内の全てのものにおいて遂行されることにより機能するものであるとされています。
 要は,どの職務をどの部署に担当させるかをあらかじめ明確に決めておき,その部署がいかなる権限を持つかも明確にしておくということです。
 たとえば,取引の承認,取引の記録,資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させることにより,それぞれの担当者間で適切に相互けん制を働かせることが考えられます。
 リスクの評価と対応において,あるリスクにつき対応策を講じることが決定された場合,リスク,とりわけ業務プロセスのリスクに対応するのは,主として業務の中に組み込まれた統制活動です。この点で,リスクの評価・対応と統制活動は密接な関係にあります。
(出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準ならびに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に係る実施基準の設定について(意見書))

財務報告にかかる内部統制の評価及び監査に関する実施基準(6つの基本的要素―リスクの評価と対応)

 リスクの評価と対応とは,組織目標の達成に影響を与える事象について,組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別,分析及び評価し(リスクの評価),当該リスクへの適切な対応を行う(リスクへの対応)一連のプロセスをいいます。
 リスクとは,組織目標の達成を阻害する要因をいいます。
 リスクには,外部的要因と内部的要因の2種類があります。
 外部的要因には,例えば,天災,盗難,市場競争の激化,為替や市場相場の変動などがあり,内部的要因には,情報システムの故障・不具合,会計処理の誤謬・不正行為の発生,個人情報及び高度な経営判断にかかわる情報の流出または漏洩などがあります。
 リスクの評価は,リスクの識別→分類→分析→評価→リスクへの対応の流れで行うものとされています。
 リスクへの対応とは,リスクの評価を受けて当該リスクへの適切な対応を選択するプロセスをいいます。リスクへの対応にあたっては,評価されたリスクについて,その回避,低減,移転または受容等,適切な対応を選択します。

財務報告にかかる内部統制の評価及び監査に関する実施基準(6つの基本的要素―統制環境)

6つある内部統制の基本的要素の一つが,統制環境です。

統制環境とは,「組織の気風を決定し,組織内の全てのものの統制に対する意識に影響の与えるとともに,他の基本的要素の基礎をなし,リスクの評価と対応,統制活動,情報と伝達,モニタリングおよびITへの対応に影響を及ぼす基盤」のことをいいます。
統制環境は,他の基本的要素の前提となるとともに,他の基本的要素に影響を与える最も重要な基本的要素です。

統制環境に含まれる一般的事項としては,①誠実性および倫理観,②経営者の意向および姿勢,③経営方針および経営戦略,④取締役会および監査役または監査委員会の有する機能,⑤組織構造および慣行,⑥権限および職責,⑦人的資源に対する方針と管理があげられます(企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告にかかる内部統制の評価及び監査に係る実施基準の設定について(意見書)」平成19年2月15日)。
これらの一般的事項の中でも特に,①の誠実性および倫理観が重要であると考えられます。なぜなら,内部統制の有効性は,それを設定する経営者の誠実性と倫理観の水準を超えることはできないからです。たとえば,経営者が利益の追求だけを求めて非現実的な業績目標のノルマを社員に求めると,不正につながるおそれが出てきます。このように,経営者の倫理観が内部統制の最も重要な基盤となっています。