監査役の任務(基礎編)

 私が監査役を務める会社は元々、監査役が3名で、全員が非常勤社外監査役でした。
 ただ、監査役のお1人は、非常勤とはいいながらも、週に2〜3日出勤していました。この方は社長がサラリーマン時代の元上司で、経験や知識も豊富で、若い会社を指導し鍛えてこられました。ガバナンスとしてはこれ以上の方はおられませんでした。
 私も、恥ずかしながら、この方におんぶにだっこで、基本的には月に1回役員会に出席し、個別の問題があれば相談に応じる程度でした。
 ところが、先日、その監査役が体調を崩され、高齢ということもあって、退任されてしまいました。残念というほかありませんが、やむを得ません。
 私も、その監査役が担っておられた職務の一端を引き継ごうと、心新たにしているところです。

 そこで、今回、初心に帰って、監査役の職務のイロハを確認してみたいと思います。

 まず、監査役の職務は、一言でいうと、「取締役の職務を監査すること」です(会社法381条1項)。

 監査すべき「取締役の職務」の範囲は多岐にわたりますが、非公開会社では定款によって「会計監査」に限定することができます(会社法389条1項)。
 会計監査に限定されると、監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるもの(会社法389条3項・会社法施行規則108条)を調査し、その調査結果を株主総会に報告すれば足ります。
 会計以外の取締役の職務を監査することを一般に「業務監査」と呼んでいます。会計監査人設置会社では、業務監査こそ、監査役に求められている職務です(会社法389条1項カッコ書きご参照)。

 他方、取締役も代表取締役の職務執行を「監督」する任務を負っています(会社法362条2項2号)。
 監査役の「監査」と取締役の「監督」とは何が違うのでしょうか。
 一般には、「監査」は業務執行の適法性(法令・定款違反)に限られ、適法でありさえすれば業務執行の妥当性にまでは及ばないといわれています。これに対し、取締役の「監督」は業務執行の妥当性にも及びます。
 もっとも、代表取締役善管注意義務を負っていますので(会社法330条、民法644条)、職務執行の不当性が一定程度を超えれば善管注意義務違反として違法になります。これは監査の対象です。
 したがって、監査役も取締役の職務執行が妥当かどうかという点を、無視することはできません。

 したがって、監査役は、会計または業務を調査して(会社法381条2項)、違法行為を発見すれば遅滞なく代表取締役や取締役会に報告し(会社法382条)、違法行為により会社に著しい損害が生じる恐れがあるときは違法行為の差止めを請求することができます(会社法385条1項)。監査の結果は株主等に報告しなければなりません(会社法381条1項第2文、会社法施行規則105条)。
 
 なお、弁護士は業務監査には最適ですが、税務・会計には疎いところがあります。私も会計監査に四苦八苦していますが、会計監査人との連携を図ろうと先日も面談をしてきたところです。
                        [弁護士宮藤幸一]